光の話 Lighttale for Art and Culture

電球

フィラメントに電流を流し、電気抵抗で生じる熱によって放射される光を利用した照明。

現在でも主要な照明の1つである電球は、電気という新たなエネルギーが登場した19世紀に、大きな利益を生むであろう新しい光源として多くの研究者や企業によって精力的に開発され生まれてきた。電球を発明した人物とされているトーマス・エジソンは、電球開発への参入こそ他の企業や学者よりも遅かったが、電球産業が生む莫大な利益を見通し、特許係争によって他の開発者や企業を蹴落とし事業の成功を手にした。エジソンは単に電球を開発するだけではなく、発電機や発電所、変電所、電球のソケットなど電気を活用するシステム全体を開発し、それぞれ事業として展開することで成功を収めた。電球の発明は、新しい照明を作ったということだけでなく、電気中心の社会を作り上げるものであった。

炭素フィラメント電球

電球の原理は、1800年代初頭に英国のハンフリー・デイヴィーが白金線を用いたフィラメントに電流を流すことよって発見しており、その後1840年ごろからハインリヒ・ゲーベルやジョセフ・スワンなどの多くの人物によって開発がなされてきたが、実用的な電球が誕生するのは電球内を真空にする技術や炭素のフィラメントを生成する技術が確立されてくる1800年の末ごろである。

1878年と79年、スワンとエジソンによってそれぞれ炭素フィラメントによる電球が発表される。1880年にエジソンは京都八幡村の竹をフィラメントの材料とした電球により長時間の点灯に成功し、実用的な電球の誕生となる。10年ほど経つと天然繊維の竹の代わりに人造繊維であるニトロセルロースのフィラメントが使用されるようになる。この頃の電球は現在のものに比べて弱々しく、明るさは25Wに満たず、光もオレンジ色であった。

タングステンフィラメント電球

炭素は真空中では約1800℃で蒸発し始めるため、それ以上の温度にすることはできない。それが電球の光が暗くオレンジ色であることや、短い寿命の原因であった。その弱点を克服し電球の性能を上げるために、金属製のフィラメントが研究させることになる。

1908年、GE社(ゼネラル・エレクトリック社)がタングステンによるフィラメントの製造に成功し、1911年に「マズダランプ」という名称で販売される。この名称はゾロアスター教の光の神「アフラ・マズダ」にちなんだものである。タングステンのフィラメントは現在の電球に使用されており、100年続いたフィラメントの素材の探求はこのマズダランプによって最後の素材にたどり着いたことになる。

融点が3387℃であるタングステンも、2500℃以上になると蒸発が始まる。それによってフィラメンが消耗し寿命が縮んだり、気体となった炭素原子がガラスの内面に黒く付着することで明るさが低下したりと、電球の機能を低下させていた。その欠点がGE社によって解消される。1913年、真空の代わりに窒素ガスを封入することでタングステンの蒸発が3000℃まで抑えられること、フィラメントをコイル状にすることでガス封入によるフィラメント温度の低下を防ぐことが発見される。1914年には封入するガスが、窒素よりも効果のあるアルゴンガスに変えられる。この不活性ガス入りタングステンフィラメント電球は、エジソンの炭素フィラメント電球よりも3倍も効率が良く、より明るい白い光を出す上に寿命も2倍近かった。現在の電球の誕生である。この電球によって当時まだ明りとして共存していたオイルランプや白熱ガス灯が駆逐され、電気が明りの役割を完全に担うことになる。

さらなる改良、クリンプトンランプ・ハロゲンランプ

不活性ガス入りタングステンフィラメント電球によって近代電球は完成したが、電球の改良はさらに続く。

1912年に東芝の三浦順一が、らせん状のフィラメントをさらに巻いた二重コイル電球を発明する。不活性ガスとはいえ、電球に封入しているガスには温度変化が生じる。フィラメントの周囲のガスの方が温度が高くなり、対流が生じることで温度の低いガスがフィラメントの周りに巡ってくるために、フィラメントの温度も低下し効率が低下してしまう。二重コイル電球はその対流を抑え、電球の効率を向上させた。

1935年にはアンドレ・クロードがキセノンやクリプトンなどの不活性ガスを封入した電球を発明。これらのガスは窒素よりも分子が大きく熱伝導率が低いため、電球内の対流がさらに起こりにくく、電球の効率や輝度が上がりさらに小型化することができた。これはクリプトンランプとして、小型の形状を生かし店舗照明や装飾的な照明として現在でも活用されている。

高温に近づくほどタングステンが蒸発し、フィラメントが消耗したり蒸発したタングステンがガラス内部に付着してしまうという問題を解消した電球が、ハロゲンランプである。1959年にGE社によって発明された。ハロゲンとはフッ素・塩素・臭素・ヨウ素などの元素の一族のことであり、電球に不活性ガスであるアルゴンとともに微量の酸素とヨウ素を加えたものがハロゲンランプである。通常の電球では蒸発したタングステンが相対的に温度の低いガラスへ向かって行き付着するのだが、ハロゲンランプの内部ではハロゲンガスがフィラメント付近で蒸発したタングステンと化合し、ガラスまで行くが付着せずに蒸発・対流、フィラメント付近まで戻り高温で再び分解され、タングステンは再びフィラメントに戻るという「ハロゲンサイクル」が生じる。なんとも一般人には理解しがたく都合の良い現象が起きているが、このハロゲンサイクルによってフィラメントの劣化やガラスの黒化が抑えられ、寿命も延びた。そして通常のタングステンフラメント電球では2500℃程度のフィラメントの温度が融点に近い3330℃程度まで加熱することができ、より明く白い光を放つようになった。ハロゲンランプはもはや家庭では持て余すほど明るく、店舗や展示における照明として現在でも活用されている。

熱放射光を利用した電球はスペクトルの分布が太陽の光に近く、かつ白い光のハロゲンランプは色の再現度を示す演色性も100%を誇る。エネルギーの90%以上を熱として放出してしまう効率の悪さという欠点のある電球だが、この演色性においては現在もその他の照明の追随を許さず、美術館設備として現在でも重要な光源である。

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