光の話 Lighttale for Art and Culture

ガス灯

ガス灯

ガスを燃料とする明かりであるガス灯は、1792年にイギリスのウィリアム・マードックが発明した。石炭ガスを燃料とし、マードック自身の自宅や事務所に設置したのが最初である。マードックはガス灯そのものだけでなく、ガスを製造する装置やガスタンク、ガスを導くパイプとその配管、ガスを制御するコックと、ガス灯が末端に位置づくガス灯のシステム全体を考え出した。そのガス灯はろうそくやオイルランプに比べ、明るさや付け消しの簡易さ、そして経済性に優れ、1800年代中頃にはイギリス全土に整備されていった。日本には、1872年に横浜の外国人居留地に、翌年には東京銀座の大通りにガス灯が設置されている。

マードックのガス灯のシステムは、エジソンが電灯のシステムを構築する際にモデルにしたものとして知られている。中央でエネルギーを生成・管理し、そこから末端の照明へと供給する構造だ。エジソンはそのモデルに従い、電球だけでなく発電所や変電所、電球のソケットに至るまで電力にまつわるすべてを開発し、事業として展開していった。これは今日の電力のシステムそのものであり、マードックは現代のエネルギーのシステムを発明した人物であるとも言えるのである。

白熱ガス灯

ガス灯は燃料のガスが直接燃焼する灯りであり、オイルランプやろうそくに比べ明るいとはいえ、それらと同じオレンジ色の炎の明かりである。これに対し、ガスの炎をセラミックスでできたマントルで囲み、熱せられたマントルの発光によって照明する白熱ガス灯は、太陽の光に近い「白い光」が出る。これが最初に普及した白い光の照明である。

白熱ガス灯は1891年にオーストリアのカール・フォン・ウェルスバッハによって発明された。世界各地で主に街灯として普及し、日本には1895年に元のガス灯を付け替える形で設置された。その普及は当時新しい光源としてすでに登場していたエジソンの炭素フィラメント電球の普及を遅らせるほどのものだったが、それでもより手軽で便利な電球との競争に負け、インフラとしての白熱ガス灯は1900年代の半ばまでにはほとんど姿を消してしまった。

現在ではキャンプ用などのガスランタンとして残っている白熱ガス灯だが、人類が手にした「白い光」の中で、電気を用いない照明は白熱ガス灯だけである。バイオ燃料など電気以外のエネルギー資源へ注目が集まる昨今であるが、その動向によっては今後再び白熱ガス灯が主要な明かりとして活躍する日が来るかもしれない。

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